もう息切れで諦めない!50代からの呼吸筋トレーニングのススメ

パーソナルトレーナーの小林素明です。「最近、階段を上るのがやっと…」「若い頃は平気だった運動で、すぐに息が上がってしまう…」と、歳のせいだから仕方ないと諦めていませんか?
実は、以前より息切れを感じる場合、筋力を鍛えるだけではなく、呼吸をサポートする筋力の低下も見逃せないのです。
この記事では、50代からの体力維持・向上に不可欠な「呼吸筋トレーニング」の重要性とその具体的な運動方法を、分かりやすく解説します。
この記事を読めば、スムーズな呼吸に必要なポイントが分かり、ご自身でも呼吸を鍛える方法を習得することができます。さらに、呼吸筋トレーニングは腰痛の改善や、若々しい姿勢の維持にも大変役立ちます。
さあ、呼吸筋を鍛えて、もう一度、軽やかな自分を取り戻しませんか?
なぜ息切れ? 50代からの呼吸機能低下のリアル

「ちょっと動いただけなのに、なんだかすぐに息が切れる…」そんなふうに感じたこと、ありませんか?
もし思い当たることがあるなら、それはあなただけではありません。50代を迎えるころ、私たちの体にはさまざまな変化が起こります。そのひとつが「呼吸する力」の低下です。
実は、肺の力は20代をピークに、少しずつ下がっていくことが分かっています。
上のグラフをご覧ください。たとえば、65歳になると、禁煙していた人でも若いころに比べて4分の1ほど肺活量が落ちます。たばこを吸っていた人(喫煙者)では、もっと大きく下がってしまうというデータです。
なぜ年齢とともに呼吸機能が低下するの?
年齢とともに、肺は少しずつかたくなっていきます。風船がしぼみにくくなるのと似たようなことが、体の中で起きているのです。その結果、たっぷり空気を吸い込むことが難しくなり、息切れを感じやすくなります。
さらに、呼吸を助ける筋肉――つまり「呼吸筋」も、だんだん力を失っていきます。重い荷物を持つのがつらくなるように、呼吸筋も年齢とともに衰えます。深く呼吸するのがしんどくなるのは、このためです。
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見逃せません!運動不足
そしてもうひとつ。運動不足も大きな原因です。コロナ禍で外出の機会が減り、以前より歩数が減っていませんか?
体を動かす時間が減ると、心肺機能もどんどん弱くなります。その結果、ちょっとした階段や坂道でも、息が上がってしまうのです。「年のせいだから仕方ない」と思って、息切れをそのままにしておくのは、少し心配です。
体を動かさなくなると、筋肉も落ちて基礎代謝も低下、さらに息切れしやすくなるそんな悪い流れに入ってしまうこともあります。
ご安心ください。気づいた今がスタートのチャンスです。少しずつ、できる範囲で体を動かすこと。これから紹介する呼吸筋トレーニングを意識すること。それだけでも、呼吸の力は少しずつ戻ってきます。呼吸の要は横隔膜です。では次に横隔膜について話します。
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呼吸の中心は横隔膜

呼吸はふだん、何も意識せずにしています。その呼吸を、体の中で支えている筋肉が「呼吸筋」です。肺そのものは動けません。そのため、肺のまわりにある筋肉が、肋骨を広げたり、上下に動かすことで空気を吸ったり吐いたりできるように助けています。
その呼吸筋の代表的な筋肉が「横隔膜(おうかくまく)」と「肋間筋(ろっかんきん)」です。中でも横隔膜は、私たちの呼吸の中心となっています。
横隔膜をもう少し詳しく説明します
横隔膜は、お腹と胸のあいだにある大きな筋肉です。息を吸うときに下がって肺に空気を取り込み、吐くときには元の位置に戻って空気を押し出します。この動きをわかりやすく学べるのが、理科の実験で使われる呼吸モデルです。(イラストの赤の囲い)
このモデルでは、肺や横隔膜の動きを簡単に再現できるようになっていて、呼吸のしくみを視覚的に理解するのに役立ちます。
横隔膜の厚さは平均で2.1〜2.5mmですが、面積や長さも含めて個人差があります。体重との相関関係が高く、活動的な人ほど横隔膜は発達しています。
この横隔膜の動きに合わせて、肋骨の間にある肋間筋も働きます。肋骨を広げたり閉じたりすることで、共同でスムーズな呼吸を支えています。
横隔膜の動きが悪くなるとどうなるの?
日常での呼吸(安静時)のうち、7割くらいはこの横隔膜が担っていると言われています。運動するときには、さらに働きが大きくなります。
ところが、横隔膜の動きが悪くなると、首や肩の筋肉が代わりに働き始めます。たとえば、胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)や僧帽筋(そうぼうきん)などです。このことが続くと、肩こりや首こり、姿勢の崩れの原因となります。
横隔膜は、体幹の「インナーマッスル」のひとつ。動きが悪くなると、体の中心が不安定になり、腰に負担がかかります。それが腰痛の原因になることもあるのです。このことは、スポーツや日常生活でのパフォーマンスの低下にもつながります。
【注目ポイント】 横隔膜と体幹のつながりが、腰を守っている

お腹の深層部には、体を支えるための筋肉のグループがあります。腹横筋(ふくおうきん)や多裂筋(たれつきん)などです。これらは「体幹の深層筋(インナーマッスル)」と呼ばれています。
横隔膜が動くと、お腹の中の圧力が高まります。すると、この圧が体の内側から背骨や骨盤を支えます。空気が入ったクッションのように、体の芯を安定させる力になります。そのため、横隔膜がしっかり働けば、腰への負担がやわらぎ、腰痛の予防に役立ちます。
ここまでで、横隔膜の重要性について触れてきましたが、なぜ姿勢が悪いと横隔膜がうまく働かなくなるのか、もう少し詳しくお話しします。
姿勢が悪いと横隔膜が本来の位置からずれてしまう

「猫背姿勢」や「腰が反る姿勢」になると、横隔膜は本来あるべき位置からズレてしまいます。横隔膜は、正しい位置にあることで深い呼吸ができます。しかし、姿勢が悪いと横隔膜の動きが妨げられて、呼吸の効率が落ちてしまいます。
同時に、姿勢の悪さは横隔膜だけでなく、体幹を安定させる「骨盤底筋群」の位置にも影響を及ぼします。これらの筋肉が正常に働かないと、横隔膜を含む体全体のサポート力が弱まり、肩こりや腰痛、疲れやすさにつながることもあります。
つまり、日々の姿勢を正しく保つことが、横隔膜が本来の機能を発揮できる環境を整えるためにとても大切だということです。正しい姿勢を意識することで、呼吸のリズムが整い、体の内側からしっかりと支える力が回復していくのです。
このように横隔膜は、呼吸だけでなく、姿勢や腰の安定にもかかわっています。これまであまり意識してこなかったかもしれませんが、横隔膜の動きは、私たちの体を土台から支えているんですね。
では、この横隔膜をふくむ呼吸筋を、どのように鍛えたら良いのか?を次に紹介します。
【今日からできる!】体の中から整える簡単呼吸筋トレーニング入門
呼吸の質を高める鍵は、横隔膜の働きを活性化させることにあります。特に年齢を重ねると、自然な呼吸が浅くなりやすく、横隔膜が十分に使われなくなることがあります。そこで、自宅で気軽にできる呼吸筋トレーニングを紹介します。
特別な道具は必要ありません。今の体力や生活に合わせて、無理なく始められる方法です。まずは呼吸をしやすくするために肋間筋をほぐし、その後、横隔膜や体幹をしっかり使えるよう順を追って鍛えていきましょう。
1 呼吸を楽にする肋間筋のストレッチ方法


- 両手を合わせて天井に伸ばします
- 肋骨を伸ばすようにして、真横に体を少し傾けます
- 自然呼吸で20秒間静止しましょう
- 反対側にも同様に行います
【注意】体を傾けすぎたり、斜め方向に傾けないようにします
呼吸に関係する内肋間筋、外肋間筋を効果的に柔軟にするストレッチ法を動画で紹介ています。肋間筋の説明、働きの解説もありますよ!上の動画をぜひご覧くださいませ。
2 腹式呼吸法(横隔膜の強化)

やり方
- 片手を胸、もう片手をお腹に添えます。
- 鼻から息を吸いながら、お腹を膨らませます。(胸が上向きに動かないよう注意します)
- 口をすぼめてゆっくり吐きながら、お腹をへこませます。
- 10回繰り返します。
ポイント
- 吐く時間を吸う時間の2倍以上にする(例:吸う3秒、吐く6秒)。
- 肩に力が入らないようにリラックスします
3 ドローイン(腹横筋の活性化、腰痛予防)

やり方(仰向けが効果的)
- 仰向けで膝を立て、床と腰の隙間を埋めます。
- 口から息を吐きながら、お腹をへこませ、腹筋を締める。
- お腹を凹ませたままで、鼻から息を吸います。
- 10〜15回繰り返します。
ポイント
- 胸が膨らまないようにします。
- 腹筋を意識し、ゆっくり吐き切ります。
- 腰が反らないように注意します。
4 肋骨締めエクササイズ(呼気・横隔膜の強化)

やり方
- 両手を肋骨の横に軽く添えます。
- 息を吸いながら、肋骨を広げます。
- 息を吐きながら、肋骨を手で軽く押しながら締めます。
- 10〜15回繰り返します。
ポイント
- 肋骨の動きを意識して呼吸を深めます。
- 横隔膜の動きがスムーズになります。
5 ブローアウト呼吸(呼気筋の強化)

やり方
- 背筋を伸ばします。
- 鼻から息を吸い、口をすぼめて「フーーー」と細く長く息を吐きます。【風船を膨らませるイメージ】
- 息を完全に吐き切ったら、自然に息を吸います。
- 10〜15回繰り返します。
- 実際に風船を膨らませるとさらに効果的です。
ポイント
- 長く吐き切ることで、腹横筋や内肋間筋が強化されます。
- 吐く時間を徐々に伸ばします。(例:最初は6秒、慣れたら10秒)。
参考文献
- 「骨格筋ハンドブック(原著第3版)」 南江堂 Chris Jarmey、野村嶬
- 「呼吸機能と体幹,横隔膜の関係性について」大貫 崇 日本アスレティックトレーニング学会誌 第 5 巻 第 1 号27-34
- 「ガイトン生理学(原著第13版)」エルゼビア・ジャパン株式会社 John E. Hall
- 「基礎運動学(第7版)」医歯薬出版 中村隆一ら
- 「標準生理学(第9版)」医学書院
- 「カパンジー機能解剖学(原著第7版)」医歯薬出版 A.I.Kapandji、塩田悦仁
- 「筋骨格系のキネシオロジー(原著第3版)」 医歯薬出版株式会社 Donaid A. Neumann
- 「ケリー・スターレット式 座りすぎケア完全マニュアル」 医道の日本社
- 「パワーズ運動生理学」メディカルサイエンスインターナショナル Scott K. Powers・Edward T. Howley
呼吸筋を鍛えて、健康な体を目指したい方へ
記事を読んで、「呼吸が浅いのは年齢のせい?」と気づいた方も多いのではないでしょうか。呼吸筋は、呼吸だけでなく、姿勢や体の安定にも関わっています。
「どこでもフィット」では、呼吸筋を整えるトレーニングも取り入れながら、体の土台づくりをお手伝いしています。指導を担当するのは、テレビ出演も多数、運動指導歴30年以上の健康運動指導士・小林素明。確かな知識と経験で一人ひとりに向き合います。
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この記事を書いた人


小林素明 (お城好きフィットネストレーナー)
テレビ番組「ちちんぷいぷい」「大阪ほんわかテレビ」「ten.」などに出演し、専門的でわかりやすい解説が好評のフィットネストレーナー。
健康運動指導士の有資格者であり、指導歴は30年以上。2010年に大阪市でパーソナルフィットネスジム「どこでもフィット」を開業し、これまでに延べ1万回以上のパーソナルトレーニングを実施。特に50代以上の「加齢に負けない体づくり」に定評がある。
医療機関と連携した安全性の高い運動指導、企業・団体向けの腰痛予防や健康経営に関する講演も数多く行い、受講者の98%から「わかりやすい」と高い評価を得ている。
趣味は城巡り、鉄道とグルメの旅、スポーツ観戦、80~90年代のプロレス、書店めぐり、そして焼肉。身体づくりも人生も、楽しみながら続けることを大切にしている。
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