【初心者向け】有酸素運動ガイド:脈拍管理で安全、効果的に持久力を鍛える方法とは?
パーソナルトレーナーの小林素明です。
陸上長距離の不破聖衣来選手や、全盛期の瀬古利彦さん、そして五輪金メダリストの高橋尚子さんの脈拍数が、1分間にわずか30~35回だったと報道されています。一般の成人の脈拍数が1分間に60~100回であることを考えると、これらのトップアスリートの脈拍数は半分以下です。
では、なぜマラソン選手の脈拍はこれほど低いのでしょうか?気になりませんか?
この記事では、脈拍とは何か、そして人によって脈拍が異なる理由について詳しく説明します。さらに、自分の脈拍を知ることで、誰でも安全かつ効果的に持久力を鍛える方法をご紹介します。脈拍を管理することで、日々のウォーキングやジョギングといった有酸素運動がもっと楽しく、効果的になるはずです。
有酸素運動には、心肺機能の向上、体脂肪の燃焼、血糖値や血中コレステロールの改善、ストレス解消、全身の血行促進など、さまざまな健康効果が期待できます。ぜひ、脈拍を意識しながら健康的な生活を楽しんでください。
脈拍、心拍数って何?
心臓は全身に血液を送り出すポンプのような役割を果たしています。心臓がギュッと収縮して血液を送り出すたびに、心臓が拍動する回数を「心拍数」と言います。
一方、「脈拍」とは、心臓から送り出された血液が血管を通る際に、血管をドクッと感じる回数のことです。少し混乱しやすいかもしれませんが、基本的には心拍数と脈拍はほぼ同じと考えて問題ありません。(ただし、不整脈がある場合は、心拍数と脈拍数が一致しないことがあります)
一般的な成人では、1分間の脈拍数が60〜100回程度が標準とされています。60回未満の場合は「徐脈」、101回以上の場合は「頻脈」と呼ばれます。
注意ポイント
脈拍が少ない「徐脈」や、逆に多い「頻脈」が長期間続く場合は、健康のサインとして注意が必要です。万が一、異常を感じたら、必ず医療機関で専門の診察を受けることをお勧めします。
脈拍をチェックすることは、健康管理にとても役立ちます。定期的に脈拍を確認し、自分の身体の状態をしっかり把握することで、心臓の健康を保ち、安心して日常生活を送ることができます。
脈拍を測定する方法
脈拍は、手首の橈骨(とうこつ)動脈を3本の指で当てて、「ドクッ」した回数で測定します。1分間は大変ですので、10秒間の脈拍を測定し、その数を6倍する方法です。
脈拍測定
例)10秒間の脈拍数が12回の場合
12回 × 6 = 72回/分
なぜマラソン選手は脈拍が少ないのか?
マラソン選手だけでなく、定期的に有酸素運動を続けると、心肺機能が向上し、脈拍が低くなる傾向があります。なぜそのようなことが起こるのでしょうか? その理由は、心臓が1回で送り出す血液の量にあります。
まず、全身に送り出す血液の量はほぼ一定です。一般的な成人の場合、1分間に約5リットルの血液が体内を循環しています(これを「心拍出量」と言います)。つまり、血液は1分で体全体を1周するというイメージです。この5リットルという量は、体の大きさや年齢によって多少異なりますが、基本的な仕組みは同じです。
ここで重要なポイントがあります。
安静時には、体が必要とする血液量は誰でもほぼ同じです。しかし、心臓が1回の拍動で送り出す血液量には個人差があります。トレーニングを重ねることで、心臓のポンプ機能が強くなり、1回の拍動でより多くの血液を送り出せるようになります。その結果、少ない拍動で体に必要な血液を供給できるため、脈拍が低くなるのです。
これは、アスリートやマラソン選手が安静時に脈拍が低い理由でもあります。心臓が効率よく働いている証拠です。一般の方でも、定期的に有酸素運動を行うことで心肺機能を鍛え、脈拍を安定させることができます。
心臓が送り出す1回の血液量
▼1分間の脈拍数: 心臓が送り出す1回の血液量
30回の場合: 1,666ml 圧倒的に多い
60回の場合: 833ml
90回の場合: 555ml
どうして心臓が強くなるのか?
マラソン選手が長距離を走り、坂道などでハードなトレーニングを積むことで、心臓は徐々に強くなっていきます。心臓は全身に血液を送り出すため、繰り返しの練習によってそのポンプ機能が鍛えられ、より効率的に血液を送り出す力をつけるのです。これが、心臓が強くなる理由の一つです。
激しい運動をしたとき、心臓はどうなる?
では、激しい運動をすると心臓はどう反応するのでしょうか? 激しい運動中、心臓の拍動数は急激に増加します。例えば、心拍数が180~200拍/分に達することもあります。これは、筋肉が大量の酸素と栄養を必要とするため、心臓がより多くの血液を送り出す必要があるからです。
激しい運動時の血液循環(図1)
運動中、体が必要とする血液量は、安静時の5リットルから25リットルへと5倍に増えます。特に筋肉に多くの血液が集中し、体全体に酸素を供給します。このとき、心臓自体にも大量の血液が供給され、心臓の動きがさらに活発になります。
心臓が強くなるメカニズム
例えば、マラソン選手の安静時の脈拍が30回だった場合、ランニング中に150回まで増えることがあります。これは、1分間に心臓が120回多く動くことを意味し、1時間で7,200回も心拍が増加します。こうして、激しい運動によって心臓は繰り返し鍛えられ、より強力で効率的なポンプ機能を獲得していくのです。
このように、心臓が強くなる仕組みは、筋肉と同じように「使えば使うほど鍛えられる」という原理に基づいています。初心者でも、無理のない範囲で運動を続けることで、心臓の健康を改善し、持久力を高めていくことができますよ。
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コラム「食後の激しい運動を避ける理由」
食後すぐに激しい運動を行うのは避けたほうが良い理由があります。それは、食後に消化器官へ十分な血液が行き届かなくなり、消化が滞る可能性があるからです。食べ物を消化するためには、胃腸に十分な血液が供給される必要がありますが、運動によって筋肉に血液が優先的に送られるため、胃腸が血液不足になってしまいます。その結果、消化不良を引き起こすこともあります。
さらに、食後は副交感神経(リラックスや消化を促進する自律神経)が優位になり、体は消化に集中する状態に入ります。しかし、食後すぐに激しい運動を行うと、交感神経(体を興奮させ、エネルギーを使わせる神経)が活発になり、副交感神経の働きが抑えられてしまいます。これにより、消化活動が正常に行われず、体に負担がかかることがあります。
そのため、食後は少なくとも1時間ほど運動を避け、消化を促進させるための時間を確保することが大切です。また、食べ物が完全に消化されるまでには、胃の中で約3~4.5時間、小腸では約8時間ほどかかります。このように、消化にはある程度の時間が必要ですので、体を動かすタイミングを工夫して、消化活動をサポートしましょう。
マラソン選手のように鍛える必要があるのか?
「体を鍛えるためには、心臓をたくさん動かした方がいいのでは?」と考えることもあるかもしれません。しかし、無理に過剰な運動を行うと、逆に体に負担をかけてしまい、逆効果になることがあります。大切なのは、あくまで自分の体力や体調に合った適切な運動を取り入れることです。
そのためのヒントとして、最近人気のスマートウォッチを活用する方法があります。アップルウォッチなどが有名ですが、このスマートウォッチは、自動で心拍数を測定し、運動が適切かどうかを教えてくれます。年齢や性別などのデータを入力しておくと、自分に合った目標心拍数が算出され、運動が適切かどうかをチェックできる便利なツールです。たとえば、運動中に「今は少し負荷が強いですよ」といったアラートが出るため、過度な運動を避け、適切な範囲で体を鍛えることができます。
とはいえ、スマートウォッチを持っていない方も多いですよね。でもご安心ください!スマートウォッチがなくても、自分に合った運動強度を見つける簡単な方法があります。それは、「自覚的運動強度」や「ボルグスケール」という方法を活用することです。
ボルグスケールを活用!自分に合った運動で持久力を鍛えましょう
ボルグスケールとは、運動中に感じる体の負荷を数値で表したもので、初心者にも分かりやすく、無理なく運動を続けるための目安になります。おすすめの運動強度は、ボルグスケールで11~13にあたる「楽である」から「ややきつい」程度です。「ややきつい」とは、少し息が上がるくらいの運動を指し、このくらいの強度がちょうど良いとされています。
気になる運動内容ですが、有酸素運動を基本に考えてみましょう。例えば、ウォーキング、ジョギング、サイクリングなど、5分以上続けられる運動が理想的です。これらは全身を動かすため、持久力を高め、心肺機能を強化するのに効果的です。
「本当にこれくらいの強度で効果があるの?」と思うかもしれません。
しかし、継続的に運動を行うことで、体力は徐々にアップします。例えば、同じペースでウォーキングをしても、数週間後には「以前よりも楽に感じる」といった変化を実感できるはずです。もちろん、無理にきつい運動をすると効果が高いように感じるかもしれませんが、続かなくなったり、関節を痛めるリスクも高まります。
大切なのは、自分の体力に合った運動強度を保ちながら、無理なく続けることです。他の人と比べるのではなく、あくまで自分にとっての「楽である」~「ややきつい」を目指しましょう。
注意事項
もし、血圧を下げる薬を服用している場合は、心拍数が通常よりも低くなります。これにより、運動の強度を適切に判断することが難しくなるため、運動を始める前には必ず医師に相談することをおすすめします。
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まとめ 【初心者向け】有酸素運動:脈拍管理で安全、効果的に持久力を鍛える方法とは?
いかがでしたでしょうか? 脈拍は、体の状態や運動強度を測る大切な指標です。脈拍を意識しながら運動を行うことで、より安全で効果的な有酸素運動が可能になります。有酸素運動は、持久力を高めるだけでなく、生活習慣病の予防やストレス解消にもつながります。毎日の健康づくりに役立つこの方法を、ぜひ取り入れてみてください。あなたの健康的なライフスタイルをサポートする重要なステップとなるでしょう。
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参考文献
- John E. Hall(2018)「ガイトン生理学 原著第13版」エルゼビア・ジャパン株式会社
- John E. Hall(2018)「ガイトン生理学 原著第13版」エルゼビア・ジャパン株式会社
- Scott K. Powers・Edward T. Howley(2020)「パワーズ運動生理学」メディカルサイエンスインターナショナル
- 中里浩一、岡本孝信、須永美歌子(2015)「1から学ぶスポーツ生理学」ナップ
- 秋山房雄(1995)「やさしい解剖生理」南山堂
- 横浜市立大学体育医学教室(1994)「運動・からだの生理学」犀書房
この記事を書いた人
小林素明 (城好きパーソナルトレーナー)
テレビ番組「ちちんぷいぷい」「大阪ほんわかテレビ」「ten」などに多数出演し、メディアからも注目されるパーソナルトレーナー。30年以上の指導経験と健康運動指導士の資格を有し、1万レッスンを超えるパーソナルトレーニング指導の実績。特に40代からシニア世代向けの「加齢に負けない」トレーニングに定評があり、親切で丁寧な指導が評価されている。
医療機関との連携を通じて、安全で効果的なトレーニング法を研究し、病院や企業での腰痛予防に関する講演では受講者の98%から「分かりやすかった」と高評価を得る。また、パーソナルトレーナー養成講座の講師としても豊富な実績を誇り、多くのトレーナーの育成に貢献しています。