ストレッチング

大阪のパーソナルトレーナー小林素明です。

ストレッチングは、筋肉や関節を伸ばすことで「関節の可動域を広げる=体の柔軟性向上」に効果的な方法です。体の柔軟性が失われている場合、腰痛や膝痛、スポーツ活動で動きのパフォーマンスが低下することがあります。ストレッチングは今やスポーツをする人だけなく、健康保持増進、ストレス解消として広く活用されています。

なぜストレッチングが必要なのか?

ペアストレッチング

大腿四頭筋(太もも前面の筋肉)の柔軟性が失われている場合、膝(ひざ)関節の可動域は制限されて、「膝が曲がりにくい」「しゃがみにくい(スクワット)」「階段の上りが苦痛になる」と、日常生活やスポーツに支障が出ます。

それだけではありません。大腿四頭筋の柔軟性低下は、活動量の低下を招き「大腿四頭筋の筋力低下」も同時に起こります。

このように柔軟性が不足していることは、関節が動きにくい、筋力が低下することに繋がります。ストレッチングで関節の可動域を広げておくことで、スムーズに膝が動き、活動しやすい体になれるのです。

ストレッチングの種類

ハムストリングス ストレッチング

ストレッチングには大きく2種類あります。

  • 静的ストレッチング(スタティックストレッチング)
  • 動的ストレッチング(ダイナミックストレッチング)

静的ストレッチング(スタティックストレッチング)とは

スタティックストレッチング

静的ストレッチングは、ゆっくりと筋肉を伸ばし一定時間の静止した姿勢を保持することです。非常に安全で効果的なストレッチング法で、関節を痛めるなどの傷害を起こす危険性は低いことが特徴です。心を落ち着かせたい時、就寝前、運動後のクールダウンに最適なストレッチングです。

専門的なメカニズム: スタティックストレッチングは、筋肉をゆっくり伸展させることで、ゴルジ腱器官(筋腱の移行部に存在)が刺激され、Ib 神経を介して脊髄の後角まで伝播される。そこから脊髄→介在ニューロンを介し、脊髄の前角→α運動神経→筋肉の緊張を緩和させる。

動的ストレッチング(ダイナミックストレッチング)とは

ダイナミックストレッチング

動的ストレッチングとは、動作を伴いながら筋肉の伸び縮み(収縮、伸展)を行う方法です。体を動かしながら行うストレッチングとも言えます。ただし、関節の可動域は無理のない正常範囲で行うことが条件となります。

体を動かしながらストレッチングを行う理由は、伸ばしたい筋肉の反対側(拮抗する)の筋肉に力を入れる(収縮)ことで、自然に体の柔軟性が向上することにあります。専門的には、相反性神経支配と言います。

動的ストレッチングは柔軟性の向上に優れていますが、正しいフォームで筋肉の力の入れ方をマスターする必要があります。

他の動的ストレッチングには、反動をつけて行うバリスティック・ストレッチングがあります。弾みや素早い動きを伴い、意図的に関節の可動域を越えますので危険度は高く、関節の怪我に繋がりやすいため、お勧めできる方法ではありません。

体を柔軟にするためのストレッチングはどのくらい行えば効果的なのか?

静的ストレッチングにおける関節可動域の変化
  • 1つのポーズに30秒間
  • 週3回を目安

上の図はストレッチングの静止時間に関する研究データ。ストレッチングの静止時間を「0秒」「15秒」「30秒」「60秒」のグループに分けて、太ももの裏(ハムストリングス)の柔軟性の変化です。このデータによりますと、30秒、60秒のグループが柔軟性アップに有効であることを示しています。

数々の研究結果から健康な人における静的ストレッチングは、「効果的かつ効率的に柔軟性を増加させるストレッチング時間としては若者や中高年者であれば 30秒間,高齢者であれば 60 秒間のストレッチング を行うことが有効である可能性がある。」と、考えられます。

また、静的ストレッチングは週3回の頻度で関節可動域(柔軟性)を効果的に増加させるという研究があります。

ストレッチングと筋トレを組み合わせるとどうなるの?

ストレッチング科学/相反神経支配

上の図は、腹筋と背筋トレーニングにおける筋肉の活動を見る「筋電図」のデータです。大きな波があると、筋肉の活動も大きいことを示しています。1回目と2回目の間に、背筋の脊柱起立筋のストレッチングを行なっています。

筋肉の活動(筋電図)

  • 腹筋:1回目 < 2回目
  • 背筋:1回目 > 2回目

という結果になっています。背筋のストレッチングを行えば、腹筋には活動が強くなり、背筋は活動が弱くなります。

2つのことが分かります。

1つ目は、腹筋の活動が強くなったことについてです。腹筋と背筋はお互いに反対の動きをする拮抗関係にあります。例えば、腹筋に力が入ると、背筋は伸びることで体を起こす動作を可能にします。つまり、背筋のストレッチングで背筋が柔軟になり、腹筋に力が入りやすくなったことが推測されます。

2つ目は、背筋の活動が弱くなったことについてです。背筋のストレッチングにより、背筋の筋肉の緊張が緩和されており、興奮を高める神経が抑えられ筋肉の活動が弱くなった、と推測されます。

以上のことから、筋トレを行う際には下記にある運動前、運動後のストレッチングの活用法を留意し、筋肉の活動を弱らせないことが必要になります。

運動前のストレッチングについて

静的ストレッチングの場合、ポーズの静止時間が30秒間を超えると筋力低下の可能性があります。そのため、準備運動では静的ストレッチングは短時間(10〜20秒間)、動的なストレッチング(ダイナミックストレッチング)、動きを入れた体操を取り入れることが良いと考えられます。

動的ストレッチングの活用

動的ストレッチングは、パフォーマンスを高める方法として位置付けされています。プロスポーツのメジャーリーガー、サッカー選手もウォーミングアップで動的ストレッチングを行なっている光景を目にします。動的ストレッチングは、静的ストレッチングとは異なり、動作を伴うことで筋温上昇(筋肉の温度)効果などで筋肉の活動が活発になります。

また動的ストレッチング後のパフォーマンスを高めるには、ゆっくり動作から素早い動作へと移行すると筋力増加が見られた、という複数のエビデンスが確認されています。

動的ストレッチング ラジオ体操のすすめ

ラジオ体操 ダイナミックストレッチング

日本人なら誰でも知っているラジオ体操。ラジオ体操は、全身の関節をしっかりと動かすダイナミックストレッチング。筋肉の温度を高め、運動に適した体づくりに最適です。スポーツ科学の観点からも素晴らしい効果が期待できるラジオ体操もおすすめです。

反動をつけたストレッチングが推奨できない理由とは?

ストレッチング 筋紡錘センサー

ストレッチングでは、「勢いをつけて強く筋肉を伸ばすこと」「反動をつけて筋肉を伸ばすこと」は逆効果です。なぜならば、反動をつけたストレッチングの場合、筋肉は伸ばされず、筋肉が収縮し縮こまってしまうからです。これは、筋肉が急激な力で伸ばされた際、筋肉が断裂しないよう筋肉内にある「筋紡錘(きんぼうすい)」の働きによる反射が起こるからです。

柔らかくしたい一心で、もっと手を遠くに・・・と勢いや反動をつけるストレッチングは、頑張りすぎればすぎるほど、体は一向に柔らかくならないのです。

筋紡錘(きんぼうすい)とは?

筋紡錘とは、筋肉(随意筋)の中に存在し「筋肉の長さ」を検出するセンサーの働きをしています。筋肉が急激に伸ばされると、筋紡錘の反射が起こり筋肉を収縮させます。筋紡錘の長さは3〜10mm。

筋紡錘の最大の特徴は、体のパワーを発揮するときに起こる「筋肉の伸張反射」です。たとえば、サッカーでボールを強く蹴る場合、足を後ろに伸ばす動作が大きいほど、ボールを強く蹴ることができます。このことは、筋肉がまるで輪ゴムのごとく、筋肉が伸びるとその弾みで強い力を発揮することに似ています。

気をつけよう!オーバーストレッチ

正しいストレッチのフォーム

また、過度に痛みを伴うストレッチングは、自分の筋肉の限界を超えた「オーバーストレッチ」が起こり、筋肉を痛める原因となります。オーバーストレッチを避けるためには、筋肉が伸びて気持ちがいいところで静止する、正しいフォームが崩れないを目安に行いましょう!

ストレッチングをやってみましょう!

部位別ストレッチング

ストレッチングの実践編です。ストレッチングをマスターするには、静的ストレッチングで正しいフォームを習得することが先決です。まずは、伸ばしたい部位を選択し、徐々にストレッチングの部位を増やしていきましょう!

見ながらマスター!部位別ストレッチング

クリックするとストレッチングのポーズが分かるページが開きます。

参考文献

  • 「ストレッチングセラピー 」 Jari Ylinen著 医道の日本社 2010年
  • 「ガイトン生理学」原著第13版 John E. Hall著 エルゼビア・ジャパン 2018年
  • 「パワーズ運動生理学 」 パワーズ,スコット・K. ハウリー,エドワード・T. 著 メディカルサイエンスインターナショナル 2020年
  • 「カンデル神経科学」 Eric R. Kandel著 メディカルサイエンスインターナショナル 2014年
  • 「筋骨格系のキネシオロジー」 原著第3版 Donald A.Neumann著 医歯薬出版 2018年
  • 「ストレッチングアップデート ―ストレッチングで“予防できるもの”と“予防出来ないもの”―」 中村雅俊(新潟医療福祉大学) 理学療法の歩み 33 巻 1 号 2022 年1月  
  • 「大腿四頭筋に対するスタティックストレッチングおよびダイナミックストレッチングが膝屈曲可動域と膝伸展筋力に与える効果」 東北理学療法学 第27号:51−57,2015.

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