第35回日本臨床運動療法学会の参加記録 パーソナルトレーナー小林素明
こんにちわ!
大阪のパーソナルトレーナー 小林素明です。
9月3日に日本臨床運動療法学会 学術集会(横浜市)に参加しました。会場は、慶應義塾大学日吉キャンパスという素晴らしい会場です。
僕が感じたトレンドは、サルコペニア、座位行動、高齢化というキーワードです。日本では深刻な高齢化で、労働人口の減少、医療費の増大と課題が多いです。その労働人口を増やし、医療費を抑制するための策ともいうべき、学術発表や教育講演が活発に行われていました。
たくさんの学術発表や教育演題の中から僕が参加して気がついたこと、勉強になったことなどを話します。
教育講演「高強度インターバル トレーニングの長所・短所 」
最近は、ゆっくり運動の効果よりも、やや激しい運動の効果に注目が集まっています。ややきつい運動を数分間行い、休憩をするというルーティーンを繰り返す「高強度インターバルトレーニング」といわれる方法です。
たったの3週間で30年分の体力が老化する??
この教育講演の中で興味深い話がありました。それは、3週間、寝ているだけで何もしないというベッドレストという研究です。このときにどのくらい体力が衰えてしまうのか?というのが、この研究の目的です。
その結果、3週間後に測定した全身持久力(最大酸素摂取量)が、26%低下していたというのです。これは、30年分の老化に相当します。(20代→50代)
ですから、外出しない日が続くと体力の老化も早くなるのです。これは気をつけないといけませんね。
全身持久力の維持には1週間に54分の運動
全身持久力の体力を維持するには、1週間に54分間の運動が必要であると話されていました。(JAXA) 運動は早歩き以上の強度となります。
ただ、これはあくまでも維持という前提ですので、体力の向上にはもう少し時間を延ばす必要があると考えます。
高強度インターバルトレーニングはプロトコル、熟練の運動指導者が必要である
高強度インターバルトレーニングは、最大酸素摂取量の80%くらいの強度で行いますので、多くの人は運動中に息切れします。ですから、徐々に運動強度を高めるプロトコルの設定、そして熟練した運動指導者が必要であると考えます。
運動指導者は、スポーツ経験者、現在もトレーニング実践者であることが必須とも提言したいです。
それでないと、どこでストップをかければ良いのか? プログラムの組み方はこれで良いのか?という判断ができません。
全身持久力(最大酸素摂取量)の向上は過労死の防止、医療費抑制に
講演された先生は最後に、「全身持久力(最大酸素摂取量)が5〜10%改善されれば、過労死の防止や医療費の抑制に繋がる。」と話されていました。
教育講演「エネルギー消費量・身体活動量の評価法:原理とその応用 」
この講演はざっくり言いますと、どうやって1日の消費カロリーを測定するのか? 測定方法の特徴がわかる内容です。
・二重標識水法(DLW)
・24時間代謝測定法
・ヒューマンカロリーメーター
・呼気ガス分析
など、様々な測定法がありますが、それぞれ特徴があり、誤差の話もありました。
1日の消費エネルギーを知る、基礎代謝量、運動など
1日に消費しているエネルギーの内訳は、
1) 基礎代謝量 60%
2) 食事による代謝 10%
3) 運動以外の消費 + 運動での消費 30%
となっています。
今回の講演のテーマは、3)の『運動以外の消費 + 運動での消費 30%』で合わせた、身体活動です。この身体活動の増減こそが、肥満や糖尿病などの疾病に繋がるのです。
身体活動の多くは日常生活でのエネルギー消費
身体活動は、寝ている時以外の日常生活で動いているエネルギー消費とイメージしてください。この身体活動は1日の中では、運動で10%くらいで、運動以外が90%を占めています。
ですから、1日の消費カロリーを増やすには、いかに運動以外で行動を促すかを考えることなのです。あくまでも、運動はやっているという前提ですよ。
身体活動(エネルギー消費量)を増やす鍵とは?
現在は、座っている生活スタイルが主体ですね。この座っている状態を「座位」といいます。これを専門的は、座位行動といいます。この座位行動こそが、身体活動量を減らしてしまう原因を作っているというのです。
この座位行動というのは、後の講演でも頻繁に使われていました。いろんな運動療法分野で確立された内容で、座りっぱなしをなくしましょう!と啓蒙されていました。
僕も同感です。座りっぱなしは、体の動きが極端に制限を受けて、先ほどの全身持久力の体力も低下しやすくなりますし、骨盤や肩甲骨といった関節にも悪影響を及ぼしますから。(腰痛、肩こりなど)
消費カロリー、運動量を測定する加速度計について
最近は、スマートフォンでもついている加速度計。これは、消費カロリーや運動量が一目でわかると一般に浸透していますね。また、家電量販店でも、万歩計の上位機種として加速度計が販売されています。
しかし、この加速度計には、メーカーの機種によってかなりバラツキがあるそうです。それは、1日に500キロカロリーとか。また、装着部位によっても誤差が生まれるようですので、注意が必要です。
ただ、消費カロリーを過少で表示されているそうですので、本当はもう少し消費しているかも?と思ってもらえればいいようです。これには驚きました。
教育講演「サプリメントの摂取状況と問題点」
世の中には数々のサプリメントが販売されています。一体何を基準に選べば良いのか?と迷ってしまうほどです。
ズバリ、言いますと、日本で認可されたものを購入すること、そして医薬品と健康食品の違いを知り、自己責任のもとで購入することが求められている時代になっています。
サプリメント!医薬品と健康食品の違いとは?
まずはサプリメントの大分類である、医薬品と健康食品の違いを知る必要があると冒頭に話されていました。
・医薬品: 病気になっている人が対象
・健康食品: 健康な人が対象
この2つの違いは、製造の管理にあるといいます。
医薬品は、安全性と有効性の試験を国で定められた方法で行われていて、製造も決められた方法で作られています。それに対し、健康食品は業者の責任で行われているため、製造方法も統一化されていないのが現状だそうです。(一部、消費者庁の審査を受けている健康食品もあります)
食品であっても国で認められた効果をうたっても良い
ここからが頭が混乱するかと思うのですが・・・。
健康食品は、国が認めた効果をうたっても良いとなっています。その効果の根拠になるエビデンスが、ヒトで実験しても、動物で実験しても同じ表示になっているのです。
また、健康食品には、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品と分類されています。たとえば、栄養機能食品の場合、「カルシウム」とだけ表示されていることが多いのですが、本来なら「カルシウムの補給に役立ちます」という文言が正しいらしいのです。
ですから、あくまでも栄養補給の補助をするものと考えることが必要になるというのです。
サプリメントの摂取には専門家のアドバイス
サプリメントは過剰に摂取すると健康被害があります。日本の場合は少ないらしいのですが、病院で処方された薬を服用されている方は十分に注意をしてください。
薬とサプリメントの組み合わせで、健康被害が起こることが十分に考えられるそうです。一番良いのは、医師、薬剤師、栄養士といった専門家にアドバイスをもらうことです。
参考)国立健康・栄養研究所 公式サイト
教育講演「非専門家のための運動療法の基礎知識」
運動療法の基本を教えてもらいました。あ〜、そういうことやったんか!と思い知らされることも多々。これを知らなっきゃ、運動療法は語れない・・・。
運動療法の歴史はロンドンバスにあり
運動療法の教科書には必ず出てくる「ロンドンバス研究」。この研究が、体を動かすのが良いという運動療法の研究の始まりと言われています。
これは何かと言いますと、1953年に発表された研究内容で、イギリスの2階建てのバスのロンドンバスで働く、車掌と運転手を対象に心臓発作を起こした人を調べました。モリス博士
その結果、運転手の方が車掌よりも心臓発作を起こしやすいことが分かったのです。車掌は、バスの1階から2階を行き来して身体活動量は多いことが想像できますね。しかし、運転手はずっと座りっぱなしで、動きが制限されています。
この運動不足こそが、心臓病になりやすいと結論付けて、その後の運動療法の発展につながり、医療費抑制にも大きく貢献しています。
健康のために【1日1万歩】を歩こう!の由来
ハーバード大学のパッフェンバーガー博士がハーバード大学の卒業生(16,936名)を対象におこなった研究があります。これは、運動不足は死亡率を高めるか?、というかなり大掛かりな研究です。
その結果、1週間の身体活動量が「2000kcal未満の人」、「2000kcal以上の人」では死亡する危険性が30%も高かったのです。この2000kcalを必要な消費カロリーとし、1日約300kcalの消費が必要であると結論づけたのです。
この300kcalを消費するために必要な歩数が、1万歩のウォーキング、そのため健康には1日1万歩が誕生したのです。
歩行運動の効果とプラトー
また、運動での速歩きは、1日35分以上で効果がありますが、1日140分を超えると効果が頭打ちになります。(プラトー) ですから、体に良いからといって、長時間の運動をすることは体を痛める危険性が増します。
世界の死亡原因、日本の死亡原因
世界の死亡原因は、「1位 高血圧」「2位 喫煙」「3位 高血糖」「4位 運動不足」。日本の場合、「1位 喫煙」「2位 高血圧」「3位 運動不足」です。
教育講演「軽度認知障害の早期発見と運動効果に関する最新のエビデンス」
日本では、460万人の方が、軽度認知障害と推定されています。
この軽度認知障害とは、
1) 「記憶が悪くなってきたこと」プラス「言葉が出てこない」「注意力が続かない」などのことが重なっていること
2) この1年間で悪化している
3) 職業生活や社会生活にも支障が出ている
この3つに当てはまっていることが定義とされています。認知症の原因は、アルツハイマー病、脳卒中の2つが多い。
アルツハイマー病について
特にアルツハイマー病は、発症する15年前から病気の進行が始まっているそうで、決定的な治療法が確立されていません。ただ、神経を良い状態に保つと発症の予防ができるかも知れないということが分かっています。
この神経を良い状態に保つ方法として、運動することを推奨されていました。
例) 60歳の高齢者を対象に週4回の運動、脳の「海馬」を良い状態を維持できる研究があり
まだ、運動による認知症の改善のエビデンスは十分とは言えないそうです。今後の研究を待ちたいと思います。
JINS MEMEによる眼電位の計測と応用事例
▲JINS-MEMEの公式ホームページより掲載
メガネのJINSが、眼電位という眼の動きを測定するメガネを販売しています。
↓ ↓
https://jins-meme.com/ja/focus/
今回の運動療法学会で発表されていたくらい学術研究に裏付けられたメガネです。
・運動での姿勢変化をキャッチ
・運動量(加速度センサー)
・集中力の測定 など
面白いのが、最後の集中力の測定です。これは、眼のまばたきをカウントすることで分かるというのです。また、精神的な緊張度合いも眼に現れるとのこと。
昔から、目は口ほどに物を言う、とあるように眼の動きは、人の感情をあらわにします。そのほか、まだ研究中のこともあるそうです。たとえば、睡眠時無呼吸症候群の早期発見。
万歩計をつけて歩数を測るように眼の動きで、より科学的な健康管理をする時代になりそうな予感です。
この記事を書いた人
小林素明 (城好きパーソナルトレーナー)
テレビ番組「ちちんぷいぷい」「大阪ほんわかテレビ」「ten」などに多数出演し、メディアからも注目されるパーソナルトレーナー。30年以上の指導経験と健康運動指導士の資格を有し、1万レッスンを超えるパーソナルトレーニング指導の実績。特に40代からシニア世代向けの「加齢に負けない」トレーニングに定評があり、親切で丁寧な指導が評価されている。
医療機関との連携を通じて、安全で効果的なトレーニング法を研究し、病院や企業での腰痛予防に関する講演では受講者の98%から「分かりやすかった」と高評価を得る。また、パーソナルトレーナー養成講座の講師としても豊富な実績を誇り、多くのトレーナーの育成に貢献しています。